うぐいす住宅建て替え計画」説明会における発言要旨

      
 私は渋谷区鴬谷町に住む者です。
 皆さんは隣接地のエバーグリーンパークホームズの建設工事が、建築基準法都市計画法違反で中止になっていることをご存知でしょうか。(会場粛然となる)
 まず、はじめに鹿島建設にご質問いたしますが、御社にはコンプライアンス委員会がありましょうか。(「あります」と鹿島建設責任者の発言)
 私は鹿島建設といえば、 歴史のある日本の代表的建設会社であり、道路を造り、鉄道を敷き、建物を建設して、日本の近代化に貢献してきた会社であることを知っております。それと同時に、鹿島守之助、渥美清石川六郎などの名経営者が今日のこの会社を育て上げたことも知っています。
 日本最初の超高層の霞ヶ関ビルを建設した先駆者であり、そして渋谷区でも最も早くそれを建てたことも知っております。
 さらに、御社は幾多の労苦を重ねてこの地の同潤会アパ−トを建て替え、代官山アドレスを完成させたことも知っております。
 しかし、このランドマークタワーは光の部分ばかりが喧伝され、影の部分があることは知らされておりません。それは周辺の住民の日照を奪い、景観を奪い、風害をおこし、旧住民同士の付き合いは崩壊し、同潤会時代の入居者はほとんどいなくなったとも聞いております。
 これはぜひとも明らかにしてください。(「これは明確にします」鹿島の責任者)
 さて、この地は第2種低層住宅専用地でありますが、御社の計画では総合設計制度を利用して容積率200%、高さ18メートルのマンション計画でありますが、総合設計制度は都心の繁華街とか狭隘の住宅街の道路や環境整備のためにつくられたもので、現にこの地にはそれを必要とする条件はありません。
 このマンションの所有形態は、自己所有者より法人所有者の割合の方が多いし、地震などにも耐えうる建築だとも聞いております。何にしても節度ある計画を進めてください。
 何故なら、この開発地には「渋谷鶯谷遺跡」があることはご存知であるはずですが、発掘調査をする共和開発株式会社の皆さんは昭和46年発行の渋谷区発行の『新修渋谷区史』はお読みでしょうか。(「読んでいない」「しかし学芸員が渋谷区の発掘報告書を調べている」と回答)
 何にしても同書は渋谷区の正史ですから、それをお読みになって作業を進めてください。同書の「渋谷鶯谷遺跡」の節には以下のように記されています。
鶯谷遺跡の発掘調査は、鉢山中学と乗泉寺境内を含む地域が対象で遺物包含状態はこの鶯谷町周辺が比較的密集しているのであるが、遺物の包含状態を知り得たのは僅かに本遺跡のみであった」「住居もいくつか確認されていてその竪穴住居内には特に遺物が多量に包含されていた」「これらの住居址の存在から推測すれば、明らかに代々木八幡遺跡に匹敵する規模と内容とををもった集落址であったことがわかるのである。正式の調査を下されないまま殆ど堙滅してしまったのは、極めて惜しまれる」と、あります。
堙滅(いんめつ)とは、うずもれて消える、消え失せる、の意味です。
 当時の発掘調査団は、鉢山中と乗泉寺を中心に調査しましたが、隣地を含む遺跡が存在することに気付かず、鶯谷遺跡は「殆ど堙滅されてしまった」と断定し、「極めて惜しまれる」と、その失われた無念さを行間ににじませております。
 副都心渋谷駅からおよそ700メートル、代官山からでも800メートルの住宅街であるこの街は、浄域・乗泉寺は文化勲章受章の谷口吉郎先生の設計で、郵便局から八幡通りに抜ける途中には猿楽遺跡があり「遺跡通り」、鉢山中学から幼稚園、猿楽小学校、第一商業高校がある文教地区は「学校通り」と呼ばれる、緑の環境に包まれた住宅街です。
 このマンション建て替え計画地の隣接地のエバーグリ−ンパークホームズでは、昨年夏以来の遺跡発掘調査の結果、渋谷区、住友不動産西松建設、発掘会社大成エンジニアリングも「渋谷区でも一度の発掘としては、大きな遺跡」と認める、今から2万年前の旧石器時代から、縄文・弥生時代の複合遺構と遺物が奇跡的に良好な状態で発見されました。
 それは、失われた縄文時代の竪穴住居が70棟、弥生時代の竪穴住居25棟、土器と石器やガラス玉が発掘され公開されましたが、その他におびただしい土器類は整理箱350箱以上におよび、渋谷区の史跡として指定されている、代々木八幡遺跡をはるかに超える大複合遺跡群で、渋谷区の歴史を書き替えるほどであります。
 学者たちもこの遺跡は学術的・歴史的・文化的にも貴重な遺跡であると指摘され、住居は何処にでも建てられるが破壊された遺跡は戻らないこと、実物遺跡こそ歴史教育に役立つという声をあげられました。
 しかし、渋谷区長以下の上層部と教育委員会は、渋谷区自身が「自然と文化とやすらぎのまち」を掲げる『渋谷憲章』をもちながら、破壊と開発優先の選択をしてしまいました。
 さて、エバーグリーンパークホームズと隣接し、「遺跡通り」に挟まれた位置にある計画地の西側道路部と、2・3号棟の間には、旧石器時代から縄文・弥生と古墳時代が確認されている極めて重要な遺跡であると推測されております。
建て替え計画に関係する個人権利者と法人権利者、建設業者にお訴えいたします。
 変貌する都市文明のなかで、この市街地に近い「遺跡通り」にあります複合遺跡を取り壊して、ただの提供公園にすることに代えて、人類文化の足跡をたどれる遺跡公園に転換していただけないでしょうか。遺跡は私のものでなく公の財産であります。
 文化遺産の継承と保存は 現代人の担う重大な責務であり、かけがえのない大事業であります。文化の破壊から受ける世間の非難よりも、私益を捨てて文化の保存に貢献する道は、間違いなく世論の絶大なる支持を得るとともに、遺跡のあるマンションとして付加価値も付くはずであります。
 御社が先頭に立ってこの文化遺産の擁護者しての役割を果たすならば、御社の信頼性はたかまり、その社会的波及効果は限りないものとなります。 
 終わりに、発掘作業は正確丁寧にされことは当然として、発掘後は広く公開されることを求めますます。
縄文・弥生人の恐怖を訴える声が聞こえてきます。どうかかられらの助けを求める叫びに耳を傾けてください。開発計画の縮小と遺跡の保存にお力を貸してください。
 (これは、平成20年6月20日の「うぐいす住宅説明会」での発言要旨である)

追記
 この遺跡の発掘調査には、相当数の調査補助者を動員されるでしょうが、 地元の学生や主婦、あるいは停退男性をボランテアーとして、学芸員の指導のもとて参加する方法をご提案いたします。これは生きた歴史教育の一環として大きい意味を持つものであり、企業と地元との好ましい連携、企業の社会的責任信用をたかめることは間違いありません。